インタビュー

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インタビュー 松田 正隆 〈まつだ・まさたか〉
聞き手 豊平 豪(大阪大学大学院/文化人類学専攻)

豊平:演劇というと、一般的にはストーリーがあるものを想像することが多いと思います。リハーサルを拝見させていただきましたが、わかりやすいストーリーがあるわけではなく、観る側が何も考えないで観れる演劇ではない。ひとつひとつの場面にいろいろな意味が含まれています。演劇になじみのない人には、そういう部分でとっつきにくいかと思うんですが。

松田:たとえば、テレビでも映画でも考えずに見ることのできるものはいくつかあります。逆にいえば、インターネットを見るときに、考えながらみてることもある。観客を招き入れるのであれば、やはりいろいろ刺激したい、「かどわかしたい」とは思っています。 メッセージを伝えるだけだったら、紙に書いて、わかりやすく教育すればいいわけです。でも、そういうことをしたいとは思いません。自分でも、舞鶴というひとつの地域を扱おうとする場合、自分自身も考えたいと思っています。
作品を創造するときって、最初から出来上がっていて、結論がでるようなものを取り扱えない。舞鶴に一週間いて、作品を作る中で見えてくるものがあります。僕はあまり最初から地図とかは開かないです。もちろんちょっとは見ますけどね(笑)。方位が定まるまで、ある程度時間がかかる。方位の定まりは、演劇的に定めなければいけないですし、創作のなかで、地図は作っていかなければならないと思います。 もちろん情報っていうのは滞在するなかで、ちょっとずつ得ていきますが、最初に舞鶴がわかったような人間という位置からはじめないようにしたいです。演劇でやる場合は、学問の人とは違って、時間を切り取ってくる人間と一緒にわかる範囲で舞鶴を理解しようと思っています。そのためには、舞鶴の既成イメージも知らなければならないのですが、積極的に知りたいとは思いませんでした。徐々に情報が入ってきたり、身体をその土地に置いたときに、はじめて、だいたいの方位がわかってくる。海に向かってどういうふうな湾になっているのか、とか。今回の場合は、『浮遊博物館』の鼎談のときに出た「子宮」とか、「包まれる」って言葉も方位がわかるためのひとつの手がかりでした。もちろん、舞鶴でそういうことを感じている人もいるでしょうが、それをもう一度感じなおすようにしたい。

豊平:松田さんの作品は、文学作品とか音楽とかいろいろと引用も多いですよね。

松田:今回は三島由紀夫の『金閣寺』とか、ドストエフスキーの『悪霊』とか引用していますね。『悪霊』の方は、一人の男が大勢の悪霊にとりつかれて、それが今度はたくさんの豚にとりついて、その豚が海に落ちるって話です 。(*1)
僕の演劇は、いつも「あまりにも情報が多すぎる」って批判されますが、あんまり脈絡つけてやると作品が小さくなってしまう。観客に複数のイメージを喚起させたいと思っています。一見、遠くみえるものも、近いものと一緒に配置したいんです。
悪霊の話は、舞鶴となんかつながる気がしました。原理主義的なものをたとえるのに使える部分もあります。海軍の船が、わけのわからない熱狂と共に大陸に向かっていったこととも重なる。人間から豚に乗り移った悪霊<レギオン>というのは、ローマ軍のことなんだけど、無数の軍隊のことを指します。
「子宮」「包まれる」っていうのは、いい意味に聞こえますが、それは何を生み出すかわからないっていうことも含んでいます。何を孕ませるかによって、どう変わるかわからない。舞鶴は、産み出したものを人知れず引き受けた場所でもありますが、日本国内に対してだけともいえる。国外に対して、軍隊がやったことは残っている。自衛隊の旗の下、シベリアからの引揚者は日本国の物語としてあるけれど、侵略された土地の異邦人としての物語もおそらくあるでしょう。引揚の受難の歴史が、国民の歴史に回収されてしまう。舞鶴に「子宮」性があるんだったら、子宮にはらませるものを国民国家の呪縛だけにしてよいのかという問題があります。それはぼんやりずっと思っていたことなんです。でも、そのことと演劇を結びつけるのは難しい(笑)。言えば済むことなんですが、そういうことはしたくないから、演劇をしているわけです。

豊平:今回の作品は松田さんの活動にとってどういう位置づけにあるんでしょうか?

松田:いつもそうですけど、街自体がテキストになるように心がけてます。先に誰それの文学的テキストがあるとか、セリフがあるとかっていうんじゃなくて、先に街がある。街を、映像取材で俳優が動いたり、フィールドワークをして演劇のテキストになる部分を作るってことです。それが現在時で行われるパフォーマンスで扱われる。
今回の場合、俳優の書いたテキストをより多く使います。これまでは、音の採集と映像の採集とをしていましたが、今後舞鶴で作るとすれば、より私の「作・演出」っていう部分が退いていくように思います。

豊平:今回は明らかに劇場ではない空間で上演されますが、それは松田さんにとって初めての試みなんですか?赤れんが倉庫でやることで何か苦労とかありましたか?

松田:ワークショップは何回かやっています。本格的に作ったっていう意味では、小品ではあるけれど、今回の舞鶴が初めてかな。 場所そのものを使う方法については、これまでも相当興味があったから、赤れんが倉庫を使うことでかえって、その場に体とか創作する側が合わせていくっていうことができたから、苦労はなかったです。劇場の額縁の向こう側にあるパースペクティブを作るっていう演劇は、特に近代以降、存在意義がなくなったじゃないかって僕は思っています。それよりも、かろうじて、今でも演劇が残っているのは、観客がある場に足を踏み入れるっていう部分を、芸能者、代弁者としての側面じゃないでしょうか。

豊平:観客は、松田さんの中でどういう位置にあるんですか?

松田:言語化できない出来事は誰も見ていない。見れない。でも、それを報告する人がいて、報告される人が観客ってことでしょうか。たとえば、「原爆」という出来事は、誰もみていない。原爆はこうだった、ああだった、っていう言い方は後からするわけですが、最初はカオスでしかなかった。そういった言語化できない出来事に立ち会わせる。それが演劇ってことでしょうか。
でも、僕は観衆を取り入れて一緒にやるっていうのは苦手なんです。だから、演者と観衆という二項対立は常に保ちつつ、じわーっとその対立を乗り越えていければ。私見る人、私やる人っていう役割は常に必要だと思います。でも、引きすぎると、今度は「ご自由にお考えください」みたいになってしまう。それも面白くないですよね。

豊平:その辺のさじ加減が、演出家の仕事の重要な部分なんですね。

松田:それだけです。本当にアレンジするのが仕事っていう。編集者のような感じが強いですね。演劇の場合、学問みたいにある地域にいって調査はしても、芸能者である演技者にその内容は代弁されるわけです。俳優のなかに入っていって獲得した情報を、簡単にみせるってやり方があるか、どうかはわかりません。演劇は、調べた内容をやる場合もあるけど、もともと演技者にあった物語を新たな土地で披露するという側面もあるから。
ある土地で獲得した、外来者の情報を俳優が語る、あるいは舞台空間に焼きなおしてつくりあげるっていうことのなかに、観る主体と観られる主体の二項対立を打破する力―それは演劇の力っていってもいいのかもしれないけど―があるのかなって思って、今こういう形でやっているわけです。

豊平:これまでの作品の中にも「笑い」のシーンがけっこうありますよね。ああいったシーンも、二項対立を打破するための工夫のひとつなんでしょうか?

松田:それはあると思います。調査主体と情報を採集される側を演出的にうまくやりたいと思っています。「私も痛みを抱えている人間ですから、調査させてください」って言っても仕方ないし、自分の演劇のネタとして、広島や舞鶴にも行くわけで、なかなかきれいごとではないですよね。それがマレビト(*2)ということでしょうか。そこにある既成概念みたいなものを打破する方法があると思っています。


脚注
*1  マルコによる福音書第五章に登場する悪霊レギオンの話。この悪霊に取りつかれた男は墓場に住み、裸で歩き回って昼も夜も大声で叫びながら自分の体を石で切りつけ、鎖や足かせも引きちぎるほどの力を持っていた。その男から出た後、二千頭ほどの豚の群れに取りつき、豚は突進して断崖から落ち、溺れ死んでしまう。
*2  まれびと、マレビト(稀人・客人)は、民俗学者折口信夫の思想の重要な鍵概念。時を定めて他界から来訪する霊的もしくは神的存在を指す。


松田正隆 演劇ワークショップ発表公演 都市日記 maizuru


アーティスト・プロフィール
松田正隆(まつだ・まさたか)
劇作家、演出家、マレビトの会代表。1962年、長崎生まれ。京都市在住。
90〜97年まで劇団「時空劇場」代表を務め、劇作・演出を手がける。94年『坂の上の家』で第一回OMS戯曲賞大賞受賞。96年『海と日傘』で岸田國士戯曲賞受賞。97年『月の岬』で読売演劇大賞作品賞受賞。98年『夏の砂の上』で読売文学賞受賞。2000年には京都府文化奨励賞を受賞。劇団解散後、フリーの劇作家として、青年団、文学座、演劇集団円などに作品を書き下ろしている。
舞台戯曲の他、黒木和雄監督作品『美しい夏キリシマ』にて映画脚本を手がけ、『紙屋悦子の青春』は原作として映画化されている。
2003年8月より劇団「マレビトの会」を結成し、劇作及び演出活動を開始。
マレビトの会の代表作に『クリプトグラフ』『声紋都市ー父への手紙』など。

マレビトの会 http://www.marebito.org/

松田正隆